車が流された遭難現場の検証ロゴ

地形図を使った事前調査

遭難現場付近の地形図 十字グリットと標高に注目

  まず国土地理院の地形図から、地形の特徴を見ていきます。
 国土地理院の地形図では、赤丸で示した十字グリットの標高が、
 左下に表示されます。

  それでは、道路上の標高を見ていきましょう。
 十字グリットの場所が、この道路上で一番標高が低い位置になります。
 それでは、主だった場所の標高を書き入れてみたいと思います。

  
遭難現場付近の地形図 主だった場所の標高を書き入れたもの

  こちらが、主だった場所の標高を書き入れた地形図になります。
 地形の特徴が、かなり際立ってきたのではないでしょうか?
 水害のメカニズムの一つとして、集まる・貯める・流れ出すという3つの働きがあり、
 この場所は貯める容器のようになっている事が判ります。

遭難現場付近の地形図 黄色枠を書き入れたもの

  こちらが黄色線を書き入れたものになります。
 道路と高台に挟まれた部分が見事に器になっています。
 集まるは、地形による水の流れを示します。
 流れ出すは、この図では容器の縁を黄色線とすると、
 一番標高の低い場所0.9m付近になります。
 水の流れを書き入れると、下記の地形図になります。

遭難現場付近の地形図 水の流れの予測を書き入れたもの。

  こちらが水の流れを書き入れたものになります。
 一番標高が低い0.1m付近に水が集まり、容器の縁に当たる場所では
 一番標高が低い0.9m付近から越水したのだろうと思われました。


遭難現場の検証

遭難現場付近

  こちらが遭難現場を写した写真になります。
 皆様は、この現場を見て、どのような印象を受けましたか?

  私は山岳遭難や水難事故、自然災害の現場を数多く見てきました。
 この現場の第一印象も多くの遭難現場と重なり、
 なぜこんな場所で遭難が起きるのだろうか?と感じるほど、
 とても平和な風景が広がる場所でした。

  今回のように、避難中や移動中に流される場所には、徒歩・自転車・�車を
 などの移動手段を問わず、共通点がある事が判りました。

 ①普段利用している道路か、よく知っている道路で遭難している事。
 ②一見すると、とても安全に見える場所で遭難している事。
 ③舗装された道路で遭難している事。

  以上の3つの点からは、遭難を予見する事はとても難しく、
 むしろ何とか安全に通れるのではないか?という希望的観測から
 遭難に至ってしまうのではないかと思われました。

  それでは、今回の現場を詳しく見ていきたいと思います。

  
遭難現場付近の写真 用水路と越水の落ち込み位置を書き入れたもの

  今回の遭難現場写真に、流された場所ⓒと用水路ⒶⒷを書き入れたもの。
 個別にⒶⒷⓒを見ていきたいと思います。

遭難現場付近の写真 越水の落ち込み場所の拡大

  こちらが車が流されたと思われるⓒの拡大写真になります。
 土手が激しくえぐられており、水の流れの激しさを物語っています。
 右に見える草の倒れ方や地面の状況も覚えておいてください。

遭難現場付近の写真 脇道から写したもの

  用水路Ⓐの付近の様子になります。
 道路には泥が堆積し、草も倒れていない事から、
 水の流れは穏やかだったのではないかと思われます。

遭難現場付近の写真 車のわだちと手前の草のなぎ倒され方を写したもの

  こちらが用水路Ⓑの付近の様子になります。
 土手の植物が、左から右へと一方向になぎ倒されたようになっています。
 この事から、かなり激しい水の流れが起きたと思われます。


現場検証結果から今回の遭難状況を推測する

遭難現場付近の写真 越水した水の流れの予想を書き入れたもの

  地形図による予測とほぼ変わらない、水色の矢印のような強い越水が
 起きた為に、車が流された事は、ほぼ間違いないと思われます。

遭難現場付近の写真 越水の落ち込みと車のわだち

  こちらが車が流された現場のアップになります。
 地面のえぐれ方からも、かなりの水が流れ込んでいます。
 水の流れを見ると、左奥に流れる水はほどんどなく、
 右矢印の方向に極めて強い流れが発生した事は間違いありません。

  しかし、車はその流れに乗る事なく、田んぼの方に向かっています。
 また、手前側のわだちは、かなり不明瞭なのに対して、奥に行くほど明瞭です。

遭難現場付近の写真 道路側から写したもの

  わだちが鮮明に残っているという事は、地面にしっかりと車重が
 かかっている状態をあらわしています。
 この事から、
 ①ブレーキがかかった状態で流されたか
 ②バックで走行したか
 この二つの可能性しかない事になります。

  流された場合は、わだちが抵抗になる為に小さな渦が出来るので、
 わだちは不鮮明になる事が多い、この写真でいうと左手前の状態です。

  奥に行くほど鮮明になるという事は、奥側の流れが緩いという事を示しています。
 この事から、ブレーキがかかったような状態で流せるほどの水流が
 車のある場所まで発生していた可能性は極めて低く、
 バックであの場所まで行った可能性が高いという事になります。

  おそらく、走行中に越水部分にさしかかったところで流され始めた為に
 バックで逃げようとしたのではないかと思われます。
 しかし、流れから抜け出せずに用水路を越えてしまったが、
 アクセルを踏みっぱなしにしていたためにあそこまでバックしたのではないか?
 というのが、私の推測です。

現場付近の地形図 遭難者の流されたと思われる流れを書き入れたもの

  しかし、あの車の位置から脱出したとしても、流される可能性は低い。
 という事は、何か別の流され方をしたと思われます。

  私は、親子がヘッドライトを頼りに道路に歩いて戻ろうとして、
 手前にある広めの用水路に落ち、そのまま流されたのではないかと
 思っています。上記の地形図のようにです。

遭難現場付近の写真

  一見安全そうに見えたこの道路ですが、
 上流側に天然のダムが出来た時に越水が始まるとても危険な場所だと
 いう事がお分かりいただけたと思います。

  そして、遭難につながる危険は、このような一見安全そうに見える場所にこそ
 潜んでいると私は確信しております。
 これからも、遭難現場のレポートをしていきますので、
 一緒に何が危険なのかというメカニズムを研究していきましょう。

  最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。

 
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